要点(30秒で): 画面に浮かんで会議を盗み見・盗み聞きし、画面共有には映らない——そんなOSSの無償Cluely代替「cue」が公開された。だが売りの”透明化”はsetContentProtectionという1フラグで、Appleが最新macOSで既に無効化している。仕組みを知れば、面接やオンライン試験で使う気は失せるはずだ。

海外のGitHubで、また一つ物騒なツールが静かに星を集めている。名前は「cue」。画面の上にふわりと浮かび、あなたが見ているものを見て、会議で相手が話す音声を聞き取り、そして画面共有には映らない——という触れ込みだ。

作者は「Blueturboguy07」というハンドルの個人開発者。狙いは明快で、話題のスタートアップCluelyの機能を、無償・オープンソースで再現することにある。現時点で476スター、98フォーク。派手ではないが、この手のツールにしては着実な数字だ。

何ができるツールなのか

cueは中身としてはElectronアプリで、macOSをメインに(Windowsも対応、Linuxは未検証)動く。処理はAPI呼び出し以外すべて手元で完結し、サーバーもテレメトリも持たない、というのが設計思想だ。

面白いのは、入力を3系統に分けて扱うところ。画面のスクリーンショット、あなた自身のマイク音声、そして相手側のシステム音声を別チャンネルで拾う。これで「誰が何を言ったか」をAIに区別させる。

機能は会議向けに振り切っている。⌘↵の「Assist」でその場の受け答えを提案し、会話をリアルタイムで文字起こしして要約(Recap)を出す。さらに⌘Hはコード画面を撮って、解法・実装・計算量まで返す。要は面接のコーディング試験を丸ごと肩代わりできる、という代物だ。

cueの仕組み——画面・自分の声・相手の声の3系統を手元で処理し、会議アシストを返す(BYOK)
cueの仕組み——画面・自分の声・相手の声の3系統を手元で処理し、会議アシストを返す(BYOK)

鍵は自分で持ち込む

cueが強調するのはBYOK(Bring Your Own Key)だ。OpenAI、Anthropic(Claude)、Google GeminiのいずれかのAPIキーを自分で用意して差し込む。キーはcue-data.jsonとしてローカルに保存され、送信先は選んだプロバイダだけ。

Claudeは画面解析やコード読解に強い一方、音声の文字起こしができないため、その場合はOpenAIかGeminiのキーを補助的に足す必要がある。Geminiならチャットも文字起こしも1本のキーで済む、という案内も添えられている。

この「鍵もサーバーも自前」という発想は、最近の草の根AIツールに共通する流れだ。以前紹介したClaude Science対抗OSSがまた登場——今度は”鍵もいらない”デスクトップ版とも通じる、月額課金への静かな反抗の顔を持つ。

看板機能「画面共有に映らない」の正体は1フラグ——旧環境では効くが、macOS 15.4以降のScreenCaptureKitには映り込む
看板機能「画面共有に映らない」の正体は1フラグ——旧環境では効くが、macOS 15.4以降のScreenCaptureKitには映り込む

“透明化”の正体は、たった1行

さて、このツールの一番の売り文句は「画面共有に映らない」ことだ。だが技術的な正体を知ると、拍子抜けするほど単純だと分かる。

cueが使っているのは、macOSのウィンドウにsetContentProtection(true)を立てるという、ただ一つのフラグ。これは内部的にNSWindowSharingNoneを設定し、ウィンドウサーバーに「このウィンドウを画面キャプチャの流れから外してくれ」と頼むものだ。READMEはこれを「DRMアプリやZoom自身のツールバーが使うのと同じ仕組み」と説明している。

つまり魔法でも何でもない。OSに用意された「共有から除外して」という標準の頼みごとを、素直に呼んでいるだけだ。cue自身、これは「best-effort(最善努力)であって保証ではない」と正直に認めている。

カンニングツール生態系の時系列——Interview Coderの停学からCluely設立・巨額調達、そしてARRの嘘の告白まで
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そのフラグ、Appleがもう塞いでいる

ここが今回いちばん伝えたい点だ。このsetContentProtectionという頼みごとを、Apple自身がmacOS 15.4以降で無視するようになっている。

理由は仕組みにある。すべてのウィンドウはいったん1枚のフレームバッファに合成されてから画面に送られ、Appleの新しいキャプチャ基盤ScreenCaptureKitは、その合成後の最終画面をまるごと録る。だから個々のウィンドウにどんなフラグを立てても、画面に見えている以上は録画に写り込む。

Appleの開発者フォーラムでも、15.4以降はNSWindowSharingNoneのウィンドウがそのまま共有コンテンツに出る、と確認されている。回避する公開APIは今のところ存在しない。QuickTime、Zoom、OBSといったScreenCaptureKitベースの現代的な録画・共有ツールは、この手の「隠しウィンドウ」をあっさり捉えてしまう。

要するに、cueの看板機能は、最新のmacと最新の会議アプリの組み合わせでは、もう当てにならない。相手が古い環境を使っていることに賭ける、というのが実態に近い。

なぜこんなツールが次々生まれるのか

cueは孤立した存在ではない。READMEは自ら「GlassやCheating DaddyといったOSSクローンを土台にした研究」だと名乗っている。ここに、この1年の奇妙な生態系が透けて見える。

震源は前述のCluelyだ。創業者のRoy Lee氏は、技術面接でLeetCodeの解答をこっそり出す拡張機能「Interview Coder」を作ってColumbia大学を停学になり、その勢いで「Cheat on Everything(何もかもカンニングしろ)」を掲げてCluelyを立ち上げた。2025年4月に530万ドルのシード、6月にはa16zから1500万ドルを調達している。

ところがそのCluely、2026年3月にはLee氏自身が「年間経常収益700万ドルは嘘だった」とX上で認める騒ぎになった。派手なマーケティングと数字の水増しで注目を買う——その周囲に、Glass、Cheating Daddy、そして今回のcueといった無償クローンが雨後の筍のように生えている構図だ。

クローン同士も平穏ではない。YC出資のPickleが4日で作ったGlassは、GPLv3のCheating Daddyからコードを盗用したと公然と非難され、ライセンス互換性まで問題になった。「カンニングを助けるツール」の界隈で、コードの無断コピーが糾弾される——皮肉としては効きすぎている。

使いどころ、そして境界線

cueのREADME自体が、用途にはっきり線を引いている。プロクター監視付きの試験、就職面接、同意なく録画される会議での使用は「するな」と明記し、想定するのは「自分用のメモ、学習、アクセシビリティ、練習」だと言う。

この但し書きを額面通り読めば、cueは会議の議事録・要約アシスタントや、一人で解く練習台としては十分に使える。BYOKでデータを外に貯めない設計は、むしろ真っ当な部類だ。問題は「画面共有に映らない」という一点が、明らかに別の用途を誘っていることにある。

日本・個人開発の視点

日本の個人開発者やエンジニアにとって、cueは二重の意味で教材になる。一つは、Electron+各社APIで「画面を見て会議を聞くデスクトップAI」がここまで手軽に組める、という実装のリファレンスとして。⌘Hのコード解析や3系統の音声分離は、真っ当な議事録アプリにそのまま転用できる発想だ。

もう一つは、「透明化」の顛末そのものだ。1フラグに頼った機能がOSの世代交代であっさり無効化される様子は、プラットフォームの上でこっそり動くツールの脆さを教えてくれる。オンライン試験や面接を運営する側にとっても、「隠しウィンドウ対策は最新OSと最新会議アプリで足りる」という実務的な結論になる。

要点まとめ

  • cueは無償・OSSのCluely代替。画面とマイクと相手音声を拾い、会議の要約やコード解答まで返すElectron製macOSアプリ(Windows対応、GPL-3.0、BYOK)。
  • 売りの”透明化”はsetContentProtectionという1フラグにすぎず、作者自身「保証ではない」と認めている。
  • そのフラグをApple自身がmacOS 15.4以降で無視するようになり、ScreenCaptureKitベースのZoom・OBS・QuickTimeには映り込む。看板機能は最新環境で機能しない。
  • 背景にはCluely(Roy Lee氏、a16z出資、後にARRの嘘を告白)を震源とするカンニングツールの生態系があり、クローン間ではGPL盗用騒動まで起きている。
  • 議事録・学習・練習用としては真っ当に使える。ただし試験・面接での「隠れて使う」用途は、技術的にも倫理的にも成立しにくい。

🐦‍⬛ 編集部の視点

この記事で一番面白いのは、「魔法のように画面共有から消える」という煽り文句の正体が、OSに用意された標準の頼みごと1行だった、という肩透かしだ。そしてそれを、当のApple自身がとっくに塞いでいた。カンニング補助という物騒な看板の裏で、実は「プラットフォームの上で隠れて動くことの難しさ」という、もっと普遍的な話が転がっている。

正直に言えば、cueの作者は誠実な方だ。READMEで「保証しない」と認め、試験や面接で使うなと釘まで刺している。ズルい話ではなく、むしろ「これがどう動くかを勉強するための公開実装」という姿勢に近い。危ういのはツールそのものより、Cluelyが撒いた「何もかもカンニングしろ」という空気の方だろう。

問いたいのはここだ。画面に映らないAIが手元で会話を聞き、次に言うべき言葉を差し出してくる時代に、私たちは「その場で自分の頭で答えた」という当たり前をどう守るのか。透明化のトリックがOSの更新で消えても、この問いは消えない。

出典・リンク

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