要点(30秒で): Metaが7月7日(米国時間)、画像生成AI「Muse Image」を発表した。Alexandr Wang率いる超知能ラボ(MSL)初のクリエイティブモデルで、Meta AIアプリ・Instagramストーリーズ・WhatsAppに無料で載る。性能も話題だが、本当に知っておくべきはそこではない。Instagramの公開アカウントは、他人が「@タグ付け」するだけで本人の知らないうちにAI画像の題材にできてしまう。通知は来ない。初期設定はオン。日本からMuse Imageはまだ使えないが、題材にされる側に国境はない。守りの設定だけは今日やっておきたい。

Metaの新しい画像AIの話を、「また画像生成モデルが増えた」で流してしまうのはもったいない。これは自分のインスタの顔写真が、明日から他人の作品の材料になるかもしれないという話だ。順番に見ていこう。

何が発表されたのか——「超知能ラボ」初のクリエイティブモデル

Muse Imageは、Metaが今年4月に発表したLLM「Muse Spark」ファミリーの画像特化モデルだ。開発したのはMeta Superintelligence Labs(MSL)——ザッカーバーグ氏がScale AI創業者のAlexandr Wang氏を招いて立ち上げた、あの超知能部門である。Llamaの後継となるMuse Sparkに続く、MSLの「製品」第2弾だ(内部コードネームは「Mango」だった)。

特徴は、描く前に考えること。土台にあるMuse Sparkの推論能力を使って、リクエストを解釈→レイアウトを計画→必要ならリアルタイムのWeb情報も参照→複数の写真を混ぜ合わせて生成、という段取りを踏む。古い写真の復元、複数人の写真の自然な合成、画像内の文字の正確な描画、スケッチで指示する編集など、「複雑な注文」への強さを売りにしている。

提供先は米国のMeta AIアプリ・Instagram(ストーリーズ向けに新AIエフェクト30種)・WhatsAppから。FacebookとMessenger、広告主向け(Advantage+)にも近く広がり、対象地域も拡大予定だ。基本は無料で、ヘビーに作りたい人は5月に始まった月額サブスクに入る方式である。

性能の立ち位置も面白い。Metaの自己申告ベンチマークでは、Googleの「Nano Banana 2」を複数の画像生成・編集評価で上回り、総合ではOpenAIの最新GPT Imageモデルに一歩及ばない——つまり「首位ではないが最前列」。LlamaでつまずいたMetaが、Wang体制でトップ集団に戻ってきたことを示す一枚になった。

Muse Imageの@タグ付けの仕様:公開アカウント(18歳以上)は面識のない他人でもタグ付けでき、AI画像の題材にされ得る。通知は来ず初期設定は許可。非公開アカウントは対象外
「@タグ付け」の仕様の整理——公開アカウントだけが題材にされ得る

本題:「@タグ付け」で他人の顔が素材になる

ここからが本題だ。

Muse Imageには、プロンプトにInstagramアカウントを@タグ付けする機能がある。友だちをタグ付けして「一緒に宇宙にいる写真」を作る——というのが表向きの使い方だが、仕様をよく見ると穏やかではない。

18歳以上の公開アカウントなら、面識のない他人でもタグ付けできてしまうのだ。米CNETの記者が実験したところ、公開アカウントを持つ同僚のユーザー名をプロンプトに入れるだけで、海賊に扮した本人そっくりのAI画像が1分もかからず生成できたという。非公開アカウントで同じことを試すと、リクエストは通らなかった。

さらに問題なのは次の2点だ。

  • 通知が来ない。Metaのポリシーには「Meta のAI機能で作られたコンテンツについて、あなたに通知されることはない」と明記されている。つまり自分が題材にされても気づけない。
  • 初期設定が「許可」になっている。守りたい人が自分でオフにしに行く、いわゆるオプトアウト方式だ。

どこかで見た構図である。OpenAIが動画アプリ「Sora」で他人の容姿を使える機能を出したとき、ディープフェイクの温床だと本人や著名人から猛反発を受け、後から制限を重ねることになった。Metaは違法・中傷コンテンツを防ぐ保護機能を組み込んだとしているが、Soraの例が示した通り、悪意あるユーザーは安全策の隙間を探すのが早い。海外では発表当日から「本人の同意なしに実在の人間を生成画像に引き込む仕組みだ」という批判が上がっている。

守りの設定2か所:Instagramアプリは設定→共有と再利用→AI機能でのコンテンツ再利用の許可をオフ。Meta AIアプリは設定→あなたの容姿で使える相手を自分のみに
今日やっておく守りの設定——Instagramと Meta AIアプリの2か所

日本のユーザーが今日やっておくべき設定

「日本ではまだ使えないから関係ない」——そう思った人にこそ伝えたい。Muse Imageを使う側になれるのは今は米国のユーザーだが、題材にされる側は別だ。あなたのInstagramが公開アカウントである限り、海の向こうのユーザーがあなたをタグ付けできない、という保証はMetaの発表からは読み取れない。

幸い、守る手段は用意されている。公開アカウントの人は次の設定を確認してほしい。

  1. Instagramアプリ:「設定」→「共有と再利用」→「InstagramやMetaのAI機能で、他の人があなたのコンテンツを再利用することを許可」のトグルをオフにする。投稿やリール単位でも個別に設定できる。
  2. Meta AIアプリを使う場合:「設定」→「あなたの容姿(Your likeness)」で、自分の容姿を使える相手を「自分のみ/承認したフォロワー/相互フォロー/全員」から選べる。最初に顔写真の登録を求められる仕組みだ。

なお、非公開アカウントはそもそも対象にならない。フォロワーを限定している人は現状のままで大丈夫だ。

顔と名前がブランドそのものであるクリエイターやインフルエンサーにとって、この設定はもはや身だしなみに近い。「公開で発信を続けつつ、容姿の再利用だけ止める」が両立できるのだから、やらない理由がない。

🐦‍⬛ 編集部の視点

今回の発表でいちばん考えさせられたのは、モデルの性能ではなく、「同意」の初期値だ。

Metaは設定でオフにできる自由をちゃんと用意した。しかし初期値は「オン」で、題材にされても通知は来ない。つまり「嫌なら自分で気づいて、自分で断りに来い」という設計である。数十億人のユーザーのうち、この設定の存在を知る人がどれだけいるだろうか。

生成AIの競争は、モデルの賢さから「他人のデータをどこまで材料にできるか」の段階に入っている。SoraがそうだったようにMuse Imageも、技術としては見事で、仕様としては危うい。使う楽しさと守る知識は、これからセットで持ち歩くしかない。

まずは自分のインスタの設定を30秒だけ確認する——この記事がその30秒のきっかけになれば十分だ。

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